rantan もしも電気が切れたなら

 PISCOのもの凄いデータから東海・関東大地震の切迫を感じ、いよいよ震災後の生活を考えはじめた。
 地震予知のホームページを主宰している以上、とうに食料や水などの備蓄は済ませているが、それでも、関東〜東海の巨大地震ともなれば、おそらくインフラ復旧は困難か、絶望的な状態になると予想できるので、これまでのような短期的な備蓄ではなく、数年を見た長期のインフラ切断生活を準備する必要があると思った。

 五年間ニワトリを飼育していて思うことだが、ヤツラはエサと水と運動場さえあれば、何の問題もなく幸せそうに生き続けている。筆者宅のニワトリも五齢目だが、今でも毎日卵を産んでくれている。
 連中は幸せだ。野生ならば、簡単にイタチやキツネなんかに食われてしまうが、筆者がさんざん苦労して二重三重のバリケードネットをこさえて、毎日エサと水をもらって卵を産んでいるだけだ。
 その卵も、筆者が蛋白制限なので、最近ではほとんどニワトリに返しているが、このときだけは、ヤツラがチラノザウルス直系子孫の片鱗を見せるのだ。

 我々も、名誉や利権、贅沢な衣服・食事・車や高級電化生活なんて高望みをせずに、ただ仲間とともに生きている現実の生活だけに目を向ければ、ニワトリと同じように、エサと水と、身を守るバリケードさえあれば余生を全うできることを理解する必要がある。
 震災は、あらゆるインフラや個人財産、消費生活を破壊する。しかし、人間が生きるために本当は何が必要か思い知らせてくれるのだ。そして、生きるということの真の意味をも思い知らせてくれる。
 何を大切にしなければならなかったか? ということだ。

 昔、登山を始めた頃、上に登って何が起きるか分からない恐怖心から、ナタだのストーブだの、余計なアクセサリーをたくさん抱えて重い荷物に苦しんで登ったものだ。
 白旗史郎が、「写真を撮りたければ、しっかりした重い三脚が必要」なんて言うものだから、まともに信じて、数万円もする4キロもの三脚を持参し、さんざん膝を痛めたものだが、やがて、そんなことはウソだと分かった。
 要はぶれない工夫をすることだったのだ。熊に何度も出遭ったがナタやナイフは必要なかった。重い燃料ストーブもやがて軽いガス式に換え、今では、おにぎりや菓子類でこなすので、ほとんど持参しない。水筒もペット飲料だけだ。やがて、登山でもハイキング程度の装備ですむようになった。
 冬山でも、重い冬山用シュラフなど持参しなくともシュラフカバーと羽毛服だけで寝られることが分かるようになり、かたつむりのような大げさ装備が、40リットル中型ザックの軽快装備に代わり、厳冬期テント二泊三日もこなせるようになった。

 震災対策の装備も同じで、あれもこれもと思い浮かぶが、たいてい実際には役に立たないものが多く、たくさん揃えすぎると、本当に必要なものが何であるのか、分かりにくくなってしまう。
 まずは、人が生きるために、本当に必要なものは何か? 原点に返って、何度も想像してイメージトレーニングすることが必要だ。そうして、無駄なものを排除し、必要なものを徹底的に整理し、最小限の身軽な装備にすることが大切だ。それでこそ、震災の大混乱のなかで問題を的確に解決できる。

 さて、そこで震災の結果、どうなるか? を想像してみよう。
 一番の問題は、電気や水道、ガスなど公共インフラが切断されてしまうことだ。これまでの震災では、数日か数十日程度で復旧することができた。それは被災範囲が小さく、周囲の健全地域からの救援があったからだが、今度の、東海地震や新関東大震災では、そういうわけにはいかない。
 おそらく、インフラの復旧は困難で、あるいは永久に望めない可能性もある。浜岡原発がメルトダウンすれば、関東東海の広い地域が永久に居住不能になることを理解しておく必要があり、被曝を逃れて移動する以外の手段は存在しない。

 まずは、その移動だが、大震災級の場合は、道路インフラもまともに破壊され、仮に破壊を免れた幹線道路があったとしても人々が殺到し、事実上、移動は不可能なる可能性が強い。また、自動車が無事だったとしても、燃料の入手が困難だ。
 こんなときは、何が役に立つのか? まずは徒歩の実力を普段から訓練することだ。それに加えて折りたためる軽い自転車があれば十分だろう。自動車の通行不能な道でも、担いで歩くことができるのだ。

 幸い原発放射能放出がなくとも、東海地震クラスの大規模なインフラ破壊では回復に数ヶ月〜数年は見る必要があるだろう。その間、人々は公共インフラなしで過ごさなければいけない。
 このとき、贅沢は論外として、人が生きるために、何が本当に必要なのか、しっかり確認できていれば、それほどあわてる必要もないだろう。

 生きるために、まず食べて飲むことが必要だ。食料と水だ。それから、病気にならない程度の、雨風を凌ぐ暖かいバリケードも必要だ。衣類と簡単な衛生設備、トイレ、こんなところで数年間を過ごすことを予想しよう。
 一番の問題は電気だ。我々は、電気漬けの生活にどっぷりと浸って生きてきた。電気のない世界など想像もできなくなっている。しかし、インフラのなかで、もっとも脆弱なのが電気なのだ。それは、ただ一本の送電線の切断で、長い停電が起きてしまう。大震災では、無数の電線がやられてしまう。阪神大震災では、復旧行程での被災電線発火事故もたくさん起きた。

 電気インフラが、どれほど生活を支えているのか?
 灯りがない、テレビが見られない、パソコンも携帯電話も電池切れで補充ができないからオシマイ。携帯など通信も補充ができないからダメだ。冷蔵庫も冷えず食品が腐り出す。洗濯機も動かない。
 こんなとき、河原でのキャンプ生活の体験が生きてくるだろう。だから、子供たちには必ず経験させなければいけない。

 田舎に住んでいる筆者宅でも大変だ。電気が止まれば、モーター類が動かないから、まず井戸ポンプが作動せず水が使えない。したがってトイレも流せない。浄化槽も浄化機能が働かない。もちろんパソコンも使えないから、当HPもオサラバということになる。
 そこで、井戸には、どうしても緊急事態用に手押しポンプの設置が必要だ。コメリHCで2万円程度で売られているので、井戸を持っている方は、とりあえず購入された方がよいと思う。面倒だが、これで水洗トイレでもバケツで利用できるようになる。
 32ミリ径なので、同径の塩ビパイプを買って、つないで井戸に入れるだけで使える。筆者の子供時代も、これだったので懐かしくてたまらない。なお、井戸掘りは、ユンボの入る場所なら、井戸屋に頼むより造園屋あたりに頼んだ方が安くあがるかもしれない。

 浄化槽は、発電機で毎日数時間運転すれば、なんとかなるだろう。廃液は肥料成分が多いので捨てるのはもったいない。可能ならばポンプで畑に送って散布すべきだ。
 灯りは、とりあえず安い石油ランタンが売られているから、それで間に合うだろう。中国製だと安全は保障できないが。筆者は、最近、カインズで売られていた490円の中国製ランタンを五台購入した。
 明るさは10ワット程度だが、冬場は一晩中つけておけるストーブ代わりにもなるので重宝だ。
 このところ夜になると石油ランタンを灯して、実用性や問題点を観察しているが、五台すべて火を灯すと30ワット以上の明るさになり、とりあえず本も読めるようになり不自由は感じない。
 テレビやパソコンなしのランプ生活も、とても良いもので、その2700Kの色調に郷愁を感じて心地よい。蛍光灯に戻すと、とても味気なく感じるほどだ。
 ランプの灯りで、友との語らいも、酒も進むにちがいない。遠達性の強い灯りなので実用は一台でも十分だろう。灯油の消費量は、一晩で50〜100cc程度だろう。18リットルあれば、毎日使っても半年は大丈夫。他の電池式ランタンは、充電インフラが遮断されるので、数日しか使えない。

 問題の食糧だが、筆者は、昨年20坪あった畑を拡張して70坪にした。山を拓いたので傾斜があり、作りたかった水田は無理だが、ジャガイモは良く育った。上手に育てれば、おおむね300キロは収穫できる。
 今年は木を伐採するのをためらったため200キロの収穫にとどまったが、その後、サツマイモを植えて、来月100キロ収穫予定だ。これで二人くらいは1年間生き延びることが可能だ。おおむね、一人一日芋1キロでお釣りがくるだろう。腹半分でも死ぬことはない、安心して生きてゆける。
 時期を変えれば、ジャガイモ・トウモロコシ・サツマイモと次々に収穫できる。肥料は近所の牛舎からタダ同然で入手できるが、今は、ある方から教えていただいている、無肥料・無耕起・無農薬・無除草栽培に取り組もうと思っている。

 都会生活では、こんな根源対策は不可能であり、せいぜい備蓄程度しかやれることはない。仕事も収入もない現状で、生き延びたければ過疎の田舎に、仲間とともに逃げて、芋作りから自給自足生活を模索するしかない。せめて、都会でもプランターで芋作りのノウハウを蓄積すべきだ。
 大都会で、定常的な仕事と収入を得て、インフラが供給されることを前提にした生活は、震災と経済破局でオシマイになると十分自覚しなければいけない。そして、おそらく二度と復活しない。

 すでに大勢の失業者が出ていて、半年の失業給付も切れて、あとは銀行強盗でもやらなければ生きてゆけないほど追いつめられている。
 この期に及んで、民主党あたりに期待をかけて、大都会でのかつての生活スタイルを復活させようと思うのは実に浅はかで、時代が本質的に変わって、もう生産ニーズなどかつての数十分の一しかないのだから仕事も激減する。
 しかし人が生きてゆくためには、最低限の生活でも食べてゆかねばならない。こうなれば、田舎に行って土地を確保し、芋を植えて自給自足で生き延びる以外の生活スタイルはありえないと、とっくに理解していなければ、これから震災のダブルパンチに遭っても、もはや生き延びる可能性はないと覚悟すべきだ。

 対策項目は、移動・通信・食料・水・衣類・暖房・灯り・シェルターとあるが、震災時にあって、家が破壊された場合は、緊急シェルターが必要になる。
 このとき、すぐに役立つのは登山装備であり、とりあえずテントとシュラフで厳冬期でも生き延びることができる。石油ランタンを灯せば暖房と灯りが確保できる。普段から登山やハイキングを楽しんでいる人、キャンプ生活を楽しんでいる人は、こうした事態に臨機応変の機転がきくから、こうした遊びが、非常時にいかに役に立つか十分に知らされるものだ。

 落ち着いたなら、適当な小屋を確保することになる。長期利用のトイレの問題は、筆者は柳田ファームの協力で、EMBCシステムトイレを実験してきた。
 これは、とんでもないスグレモノで、水洗トイレの排水を、浄化槽で完全に浄化し、糞便もトイレ紙もすべて消失してしまい、出てくる水は飲めるほどのものだ。筆者宅では過去五年間、重大問題なく稼働している。
 このトイレシステムについては、別に詳細に語る必要があり、次回に掲示したい。