「おっぱい舐めたと、懲役2年の実刑へ」

 2016年、東京都足立区の柳原病院で右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を執刀した外科医師が、女性患者から「術後に左胸を舐めるなどのわいせつ行為をされた」と訴えられたもの。



 2019年2月20日、東京地裁刑事第3部(大川隆男裁判長)は、女性の被害の訴えは、麻酔覚醒時のせん妄の可能性があり、検察が出したDNA鑑定及びアミラーゼ鑑定についても、証明力が十分ではないとして、無罪判決を出した。

 しかし、東京高裁刑事第10部(朝山芳史裁判長)は、2020年7月13日、逆転有罪判決を言い渡した。

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 無知な私が勝手な論評をするより、関係者の証言を羅列した方が真理に迫れると考え、記事を引用する。以下は、一審無罪判決後の論評



 乳腺外科医「わいせつ事件」高裁初公判、出廷した精神科医の証言とは 2020.2.8

 https://diamond.jp/articles/-/227956



 2016年、男性乳腺外科医が手術したばかりの女性患者から、準強制わいせつ罪で訴えられ、検察から懲役3年を求刑された事件があった。昨年、東京地裁は乳腺外科医に無罪の判決を言い渡したが、検察は東京高裁に控訴した。2月4日、初公判が開かれた。(医療ジャーナリスト 福原麻希)



  東京都足立区の民間病院で起きたこの事件は、男性乳腺外科医(当時40歳)が女性患者A子さん(以下、本記事では女性患者)の乳房から良性腫瘍を摘出した手術の執刀直後、病室での診察時、「乳房をもまれたり、しゃぶられたり、自慰行為をするなどのわいせつ行為を受けた」と訴えられた(詳細は、記事『乳腺外科医の「わいせつ事件」で求刑、医療現場悩ます麻酔の幻覚』)。A子さんは全身麻酔の手術を受けていた。



 乳腺外科医は診察時、手術の切除縫合部から血が出ていないか、ガーゼをめくって確認しただけで、時間はわずか数分だった。このため、乳腺外科医1人でベッドサイドに出入りしていた。

 病室は4人部屋が満床で、手術終了後の14時32分〜15時半という看護師や薬剤師が頻繁に出入りする時間帯だった。女性患者のベッドはカーテンが閉められていた。



 一昨年から昨年にわたって13回続いた裁判では、客観的証拠をめぐって、検察側・弁護側双方合計23人の証人が立ち、激しい攻防を繰り返した。



  全国の病院の中には「ベッドサイドに立つとき、毎回、必ず看護師を伴っていくことはできない」「緊急時はどうしたらいいか」と訴える医師も出てきて、医療関係者はこの裁判の行方を非常に憂慮している。



 東京高裁での争点は(1)客観的状況によって「せん妄(*)」があったと診断できるか、(2)事件が起こったとされている時刻当時、女性患者が身の回りで起こったことをどのくらい認識できていたか(LINEメッセージを発信できたなどを含めて)、(3)女性患者がせん妄状態だった場合、幻覚や錯覚(刺激または対象の客観的事実を違ったものに知覚すること)が起きた可能性はあるか。



 「せん妄」は病院ではよくあることで、「毎日、新たな複数の患者が発生する」と言われている。だが、これまで一般的な認知度はとても低く、家族が右往左往することもある。せん妄が報道で取り上げられたこともあまりなく、非常に珍しい事例といえる。



 *「せん妄」とは、注意の障害、意識の障害(環境に対する見当識の低下、見当識とは時間や場所等を判断する能力)、認知の障害(記憶を失う、適切に話す、顔や物等を認識する能力)が数時間から数日間現れること(DSM-�后法�

 一般的なせん妄時の症状には、「(患者が)『ここはどこ』と聞く」「会話のつじつまが合わない」「場当たり的な返事を繰り返す」「その時間に起こったことを思い出せない」「人がいないのに『人がいる』と言ったり、話しかけるようなそぶりを見せたりする」などの症状が起こる(詳細は、記事『「入院中に家族が認知症かもと疑う「意外な症状」の正体」』)



 検察側証人「せん妄状態だったが、幻覚があったとはいえない」



 第1回公判では、検察側が推薦した証人として大学病院の精神科医師(専門は司法精神医学等、以下、検察側証人)が証言した。検察側証人は(1)女性患者にせん妄はあった、(2)女性患者の証言は信用できる。せん妄状態だったが、幻覚があったとは言えない、(3)医師のわいせつ事件はまれでない、の3点について詳しく証言した。これらの証言の概要を紹介する。



 【検察側証人の主な証言】



 (1)女性にせん妄はあった



 手術が終了した時刻から事件が起こったとされる時刻までの28分間、女性患者は麻酔から覚めていく途中だった。特に、手術を終えた13分後、看護師が病室に戻ってきた女性患者に検温をしようと、服を少し上げて体温計を入れようとしたら、女性患者は目を閉じたまま「ふざけんな、ぶっ殺してやる」と小さな声で言った。

 証人は、このときのことを「重度のせん妄状態(過活動せん妄)」と説明する。そして、この手術で使った麻酔薬(特にプロポフォール)の種類とその影響がなくなっていくはずの時間から考えて、事件が起こったとされる時刻も井原教授は「せん妄状態だった」と判断した。ただし、このときは「軽度のせん妄状態だった」と説明する。



 (2)せん妄には重症度があり、患者の容態は異なる



 女性患者は(1)の通り、術後、せん妄状態だったが、時間を追うごとに麻酔から覚醒していたため、証人は「事件後、LINEで知人に助けを求めた時刻は軽度のせん妄状態だった」と説明する。その理由として、事件が起こる前の時刻(術後23分後、患者の「痛い痛い」のうわごとを聞いた医師と看護師が痛み止めを投与した)「患者は看護師からの問いかけに冷静に答えたので、証人はこのときのせん妄は混合型(図2参照)」と判定した。さらに、証人は患者女性が事件時、軽度のせん妄状態だったと判断したことについて「女性は携帯を探して、LINEのアプリを立ち上げ、その操作をして、『たすけあつ』『て』『いますぐきて』と打っている。麻酔が体内に残っているので、すぐ眠りに落ちるとしても、幻覚を見るほど重度のせん妄状態ではなかった」という趣旨の説明をした。



 だが、筆者の別の精神科医への取材によると、「せん妄は短時間のうちに意識が変動することが本質になるため、意識混濁の浅い時間と深い時間がめまぐるしく変わる、その全体がせん妄です」「通常24時間単位の全体像からせん妄の型を判断します。

 このため、短時間内の部分を捉えて、この瞬間は過活動型、次の瞬間は混合型、最後の方は低活動型 などという説明にはなりません」という。



 また、検察側証人は「医学におけるせん妄に関する分類は、法廷で使われることを想定されていない」として、法廷で使われることを想定した「アルコールによる酩酊と刑事責任能力の有無」の文献(*1)を用いて、今回の女性患者の容態を説明した。「アルコールによる酩酊(めいてい)はアルコールによるせん妄状態」と述べた。さらに、「術後の麻酔(特に、プロポフォール)のせん妄と一般的なせん妄を比較することに意味がない」と述べた。



 だが、筆者の別の精神科医への取材によると、「アルコールによる酩酊とせん妄は別です」という。



 (3)医師によるわいせつな事案は増えている



 一審で「せん妄状態のとき、幻覚を見ることがある」という患者の聞き取りを集めた海外の文献が紹介されたが、「近年、それが参考にならないほど、世界的に医師のわいせつ事案が増えている」という趣旨の説明をした。



 そして、証人は海外の文献(「患者に性的暴行を加える医師のタイプ101事例」*2)から分析された5因子を紹介した。(1)男性医師100%、(2)39歳以上(92.1%)、(3)州医医事当局の就業許可証明がない、(4)非アカデミックな医療施設(筆者注:研究機関である大学病院等以外)(94.1%)、(5)患者を医師1人で診察する(85.1%)。(注:反対尋問で、他にも重要な因子があることが明らかになった。記事最後の段落で詳述)



 ただ、これはあくまでも一般論になる。医師と弁護士の両方の資格を持つ、浜松医科大学医学部(医療法学)の大磯義一郎教授は「医師の性的犯罪が問題となっていることと、当該被告人が犯罪を行ったか否かは何の関係もない事柄です。

 このような証言は自然的関連性のない(事実の存否の証明に役立たない)証拠として、刑事訴訟法上排除されるべきです。それに加え、本件のような世間の耳目を集めている事件において、そのような証言をすることにより、一般国民に対しても不当な誤解、偏見を生じさせかねません」と指摘する。



 このほかに、一審のせん妄に関する証言について、おもに次のような趣旨で批判した。



 ◎一審では、がんが専門の医師が証言したが、せん妄の定義が広義な上、グレードに分けられていない。このため、女性患者に幻覚が見えると判断してしまった。



 ◎一審で証言した医師はがんが専門なので、高齢者の患者を多く診ているのではないか。本件は若い年齢の事例となるため参考にならない。また、術後のせん妄(特に、プロポフォール)と、一般的なせん妄は異なる。



 「性犯罪は繰り返される」というデータを言わなかった理由は?



 前述の証言に対して、医師側弁護士は反対尋問でおもに次の点を指摘した。



1.医師側弁護士は「証人が証言したせん妄に関する説明は、学会発表や学会誌に論文として掲載されたことはあるか」「今日の『低活動型のせん妄状態では幻覚は出ない』の意見について出典はあるか」と検察側証人に何度も質問した。



 検察側証人は「発表したことはない」「法廷で分かりやすく説明するために『アルコールによる酩酊と刑事責任能力の有無』の文献内容をせん妄状態に置き換えて説明した」と言った。その理由については「せん妄に関する専門知識を本件に当てはめるのはリスクが高く、理解が難しいと判断した」と説明した。



 このやりとりについて、「学会で発表する」ということは、その内容がすでに第三者からの批判を受けたり議論されたりした可能性があることを意味する。

 「学会誌に掲載される」ということは、さらにそのテーマの専門家が査読し、新たな重要な研究内容と認定されたということになる。だが、検察側証人の見解や理論は、これまで他者が発表したこともないという。つまり、証人は「独自の見解を証言した」と言ったことになる。



 そして、筆者が別の精神科医へ取材したところ「低活動型のせん妄にも幻覚や錯覚が出るのは一般的」と言われた。



 傍聴していた私だけではなかったと拝察するが、被告を有罪と判決を出すための証言でこの独自の見解を述べられるということに大変な憤りを感じた。検察側証人の証言内容が正しいのであれば、きちんと出典を明らかにすべきである。被告は人生がかかっている。議論は学会でやってほしい。



2.医師側弁護士が、海外の文献に「低活動型と混合型のせん妄状態の幻覚は同じくらいの確率で起こる」と記載があることを示した。



 だが、検察側証人は「このデータは、がんの緩和ケアで、平均年齢が70歳前後の患者で、A子さんの事例とはまったく質が異なる」と一蹴した。質的な違いとは、「基礎疾患(筆者注:がん、肺気腫等、体力や体全体の状態)があるかどうかも考慮しなければならない」と説明した。



3.検察側証人は、証言を要約すると「30代で健康な女性が手術の麻酔による重度のせん妄状態に陥っても、時間がたつにつれて、麻酔は覚醒していく。

 低活動型のせん妄状態になったときは興奮せず、見当識(場所や時間の認知機能)は保持され、覚醒時の記憶障害は少しで、あとで思い出せる、幻覚等が起こることはきわめてまれ(ただし、この件は背景因子による個体差もあるとも言う)」と説明した。



 ところが、弁護側証人はA子さんがLINEを送ったあとの時間帯、病室でA子さんが興奮した大きな声で「こんな病院なんか、いやよ。もう帰る」という趣旨のことを叫んでいたことから、これは低活動型のせん妄状態の判定ではなく、過活動型と判定されるのではないかと指摘した。

 一方、検察側証人は「せん妄状態というよりは、A子さんをいらだたせることがあったのではないか」と見解を述べた。



 4.検察側証人は、前述の海外の文献(「患者に性的暴行を加える医師のタイプ101事例」*2)から分析された5因子〈(1)男性医師、(2)39歳以上、(3)州医医事当局の就業許可証明がない、(4)非アカデミックな医療施設、(5)患者を医師1人で診察する〉を紹介した。

 だが、文献には、そのすぐ次の行に結論として「ほぼすべての事例では1年(73%)以上継続した複数の被害者に対する繰り返される性虐待(96%)があることも関係している」と記載されていた。



 一審で被告弁護側は「今回の被告の乳腺外科医は過去500例以上の女性患者の手術をしていたが、今回のような訴えは一度もなかった」と話していた。また、被告逮捕前、検察が被告の自宅から出たごみ袋から証拠を探そうとしても、それに見合う物が何も見つからなかったというエピソードがあった。



 検察側証人はどうして前述の結論を言わなかったのか。この点に悪意を感じた。



 次回の裁判では、この証言を受けて、被告弁護側の証人が証言する。



 なお、本記事では、検察側証人の証言内容について疑問に感じたところを別の精神科医へ取材したが、他にも疑問視されているくだりはある。次回の裁判でもせん妄の専門家が証言するため、そのとき別の見解が出た部分は追って報告していく。



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 引用以上 引き続き引用



 【乳腺外科医事件、高裁で逆転有罪】科学軽視の“だるま落とし判決”が与える衝撃 2020.07.22 江川紹子

 (原発推進派なので私は嫌いだが、刑事事件では一定の活躍がある)

 https://biz-journal.jp/2020/07/post_169579.html



 男性の胸部外科医が手術後の女性患者の胸をなめるなどしたとして、準強制わいせつの罪に問われ、一審で無罪となった事件で、東京高裁(朝山芳史裁判長、伊藤敏孝裁判官、高森宣裕裁判官)は、医師を懲役2年の実刑とする、逆転有罪判決を出した。



 同高裁は、これまでの審理で議論の前提となっていた証言について、判決で突如信用性に疑問を投げかけ、証明力を減殺させた。その一方で、一審で疑問符がつけられた科学鑑定は、技官の経験などから信用できると認定。鑑定の科学性に頓着せず、これまでの議論の積み重ねの前提をたたき出す、だるま落としのような判決に、衝撃が広がっている。



 議論の前提となっていた看護師証言



 裁判では、1)被害者の訴えは、手術後の「せん妄」による幻覚だった可能性があるか否か 2)被害者の胸をガーゼで拭って採取した微物鑑定の科学性、証明力――が争点になった。



 患者A子さんの訴えによると、男性医師は2016年5月10日午後2時55分頃から3時12分頃までの17分間に、2回にわたって病室で、手術をしなかった左側の胸をなめたり吸ったりしたうえ、ベッドサイドで自慰行為に及んだ、という。



 病室は4人部屋で満床。各ベッドの周囲は、床上35センチの高さまで薄手のビニールカーテンで囲われていた。A子さんによれば、男性医師は、1回目は女性看護師がカーテンの中に入ってくると逃げるように出て行き、2回目はA子さんがカーテンの外にいた母親を呼ぶと、やはり逃げていった、とのことだ。



 一審の東京地裁は、A子さんの証言について「具体的で迫真性にとみ、供述の一貫性がある」と認定。供述調書には書かれていないのに法廷証言で語られた事実や、看護師が出入りしたり母親が近くにいる所で医師が自慰行為に及んでいたなどという訴えなどに疑問符をつけながらも、信用性を認めた。



 そのうえで、検温の看護師に「ふざけんな、ぶっ殺してやる」などとつぶやくなどのA子さんの状態や専門家による証言を前提に、手術時の麻酔薬が通常より多く投与される一方、鎮痛剤の投与は少なく疼痛を訴えていたことから、当時のA子さんはせん妄に陥りやすい状態にあり、それに伴う性的幻覚を体験していた可能性がある、と判断した。



 控訴審では、裁判所がA子さんがせん妄状態にあったのかどうかなどを「関心事項」として示し、その訴訟指揮によって、検察・弁護側がそれぞれ推した専門家の証人尋問が行われた。



 検察側証人の獨協医科大埼玉医療センターの井原裕教授は、「私はせん妄研究の専門家ではないが、司法精神医学の専門家である」として、せん妄を飲酒による酩酊の程度にたとえる、独自の論を展開。「ふざけんなよ、ぶっ殺してやる」発言が出た時点では、A子さんは「病的酩酊」「複雑酩酊」にあたる「過活動型せん妄に伴う興奮」状態だったが、その後「単純酩酊」にあたる「低活動型せん妄」に移行し、被害を訴えた時点では、「ほろ酔い」状態で、「ほろ酔いの人が幻覚を見るわけがない」と述べた。

 そして、被害の訴えは性被害者の証言の典型として信用できる、と断言した。



 井原教授がオリジナルな説を展開したのとは対照的に、弁護側証人の埼玉医科大国際医療センターの大西秀樹教授は、国際的に使われている2つの診断基準(DSM-5とCAM)を用いて、A子さんの当時の状況を分析。A子さんの状態は、せん妄に関するDSM-5の5つの診断基準をいずれも満たし、CAMにおいてもせん妄と認定できる、と判定した。



 また、せん妄からの回復は「(酔いが覚めるように)直線的に回復していくとは考えない」として、井原説を否定した。せん妄に関する論文が多く、いわばせん妄の専門家である大西教授は、自身が体験したせん妄の事例も挙げて解説した。



 上記のように、いずれの証人も、看護師3人や同室の患者を含む一審での証言を前提に、主張を展開していた。検察側も、一審では「病院関係者は口裏合わせをしていて信用できない」と述べたものの、控訴審の弁論では、そのような主張はしていない。それどころか、看護師証言を前提にした井原証言を全面的に支持している。



 看護師証言をめぐる高裁の“ご都合主義”



 ところが判決では、「ぶっ殺してやる」という発言がカルテに書かれておらず、A子さんの状態が「せん妄」とカルテに記載されていないことを挙げ、看護師証言は「病院関係者による証言であるから、その信用性は慎重に行う必要がある」と指摘。その証言は「弁護人や病院関係者の影響をうかがわせる」などとして、信用性を減殺させたうえで、一審を含めた専門家証人による「せん妄」との判断も「これらの事実(=看護師証言)が認定できないとすると、各証言の信用性も大きく損なわれる」とした。



 だるま落としで、下のほうの木片をたたき出すように、一審、控訴審と積み上げてきた議論の前提をはじき飛ばした東京高等裁判所。もし、一審の記録を読んで病院関係者の証言の信用性に疑問を抱いたのであれば、裁判所は彼らを控訴審に呼んで、その証言態度を確かめ、偽証しているかどうか自ら問いただせばよかったのではないか。

 

 しかし、高裁裁判官らが控訴審に臨んで検察・弁護側が双方に示した「裁判所の関心事項」には、病院関係者を含む証言の信用性には触れていない。にもかかわらず、自分では見ていない聞いてもいない(しかも一審裁判官らは「概ね信用できる」とした)病院関係者証言の信用性を貶めたのは、弁護側にとっては、予想もしない不意打ちだった。



 ところが、それでは検察側証人の井原氏の証言と矛盾することになる。それを立て直すためだろう、高裁判決の看護師証言についての評価は、その後、さらに揺れる。



 判決は、A子さんが手術後にしきりに不安を訴える言動を示していた旨の記載がカルテにあることを挙げ、「これらは、せん妄の徴候と見る余地もある」と述べる。そして、「ふざけんな、ぶっ殺してやる」発言が認定できるならば、「せん妄という診断がされ得ることは否定できない」と、せん妄の可能性をよみがえらせた。



 さらに判決を読み進めると、「ふざけんな、ぶっ殺してやる」発言があったことを前提に、「この時点でせん妄状態にあり、幻覚を見ていた可能性は否定できない」とも書いている。そして、このように続く。



「麻酔の影響が抜けきっていないとも考えられるから、いささかその場の状況にふさわしくない言動をしても、不自然、不合理ではないというべきである」



「『ふざけんな、ぶっ殺してやる』との言動は、A子自身記憶がないことに照らしても、幻覚によるものとして矛盾がない」



 それでも判決は、被害証言は「生々しいもの」で、これを「せん妄による幻覚として説明することは困難」として、高い信用性を常に維持させた。



 要するに、せん妄による幻覚の可能性があるとする専門家たちの証言の信用性を落とすために、看護師証言を疑問視するが、検察側証人の井原教授の証言を生かすために、同じ看護師証言を所与の事実のように扱っているのだ。これをご都合主義といわずに、なんと呼べばいいのだろうか。



 高裁判決は、専門家証言に対する評価の仕方も、独特である。



 検察側証人の井原教授について、「せん妄に関する専門の研究者ではないが、せん妄に関する豊富な臨床経験を有している」などと高く評価。せん妄を飲酒酩酊と同様にとらえたことは、「学会において一般的に承認された考え方ではない」と認めつつ、それでも「このことから同医師の証言全般の信用性が損なわれるものではない」と擁護した。



 一方、弁護側証人となった大西教授については、「せん妄に関する専門の研究者」と認めたものの、「その研究分野はがん患者のせん妄や末期治療を中心とするもの」であって、(A子さんとは異なる年齢層の)高齢の患者を多く診ている、とケチをつけた。

 これは、井原教授が「(A子さんは)若くてピンピンしていて、せん妄準備因子がない人」として大西証言を批判したのに、裁判所が便乗したのだろう。弁護側は「若年のせん妄と老人のせん妄が異なるという医学的知見はない」と反論していたが、裁判所はそれを、格段の理由を示さずに退けた。



 こうして、大西証言は井原証言に比べて「信用性が低い」と断じたうえで、「A子は本件当時せん妄に陥っていたことはないか、仮にせん妄に陥っていたとしても、せん妄に伴う幻覚は生じていなかった」と結論づけた。



 結局、国際的な診断基準に基づく判断よりも、「学会において一般的に承認された考え方ではない」独自の説に、裁判所は軍配を上げたのである。



 専門家証言を吟味し、より信用できると判断した意見に従って、A子さんの証言を分析するのではなく、A子さんの証言を事実として認定することを決めたうえで、それに添う専門家証言を採用した、ということではないのか。



 「科学的厳密さ」を軽視した高裁判決



 本件では、A子さんの左胸から採取した微物を調べた警視庁科捜研の鑑定結果も争点になっている。

 唾液などの付着を調べるアミラーゼ鑑定では、色調の変化で陽性と判定されたが、写真などの客観的な記録は残されていなかった。DNA定量検査についても記録が残されていない。本件では検出したDNAの量が重要であると検察官に告げられた後、技官は残った抽出液を廃棄しており、再検査ができなくなった。さらに、実験ノートに当たるワークシートを鉛筆で記入し、消しゴムで消して書き直した部分が、法廷で明らかになっただけで9カ所あった。



 一審は、こうした点をふまえて、「信用性には一定の疑義がある」「証明力は十分なものとはいえない」とした。



 ところが今回の高裁判決は、鑑定を行った技官が「相応の専門性、技量、実務経験を有し」「あえて虚偽の証言をする実益も必要性もない」などとして、「信用性を否定すべき理由はない」と鑑定結果に高い信用性を与えた。



 客観的な記録がなく、残余抽出液の廃棄で鑑定の検証機会が失われた点などについては、東京高裁の判断は以下の通りだ。



 「科学的厳密さを損なうことにはなるが、このことからただちに(技官の)証言の信用性が失われるとはいえない」



 「検証可能性の確保が科学的厳密さの上で重要であるとしても、これがないことがただちに本件鑑定書の証明力を減じることにはならないというべき」



 ワークシートの鉛筆書きについても、書き直し部分が「結論に直結」しないとして取り合わなかった。



 要するに、刑事裁判では「科学的厳密さ」は、被害証言に比べて、それほど重要ではないと、高裁は宣言したに等しい。



 これは、恐ろしいことではないか。裁判で科学的な証拠や証言の重要性がますます増していることを考えると、他のさまざまな事件への影響も懸念される。

 医療の世界でも、この判決は衝撃をもって伝えられた。



 新しく日本医師会会長に就任した中川俊男氏は、7月15日の会見で本判決に触れ、「体が震えるほどの怒りを覚えた。日本医師会は、判決が極めて遺憾であることを明確に申し上げる」と述べた。



 麻酔医でもある今村聡・副会長も「このような判決が確定することになれば、全身麻酔下での手術を安心して実施することは困難となり、医療機関の運営、勤務医の就労環境、患者の健康にも悪影響を及ぼす」と危機感を示した。



 被告・弁護側は、高裁判決を不服として、即日上告した。最高裁が、「科学」に対してどのような姿勢で向き合うのか、注目したい。(文=江川紹子/ジャーナリスト)



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 引用以上



柳原病院事件、電車の“わいせつ事件”と同列に扱うな! 2016年11月28日

https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/480772/



  乳腺外科医事件、前立ち医師「被害届に愕然とした」−八巻秀人・柳原病院外科医局長に聞く 2019年4月12日

 https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/671296/



 乳腺外科医事件「高裁は数々の証拠を黙殺」男性外科医「直接・間接の力を皆さんからもらいたい」2020年8月31日 

 https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/817165/



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 私が、柳原事件を知った限りで感想を述べれば、これは滋賀県の西山看護助手事件と同じ、権力によって捏造された冤罪であると断言するしかない。

 http://www.kyuenkai.org/index.php?%B8%D0%C5%EC%B5%AD%C7%B0%C9%C2%B1%A1%BF%CD%B9%A9%B8%C6%B5%DB%B4%EF%BB%F6%B7%EF



 女性が、思い込みによって幻覚を見て、それを信じてしまうということは、とてもありふれたことで、人格的に問題のある女性では、頻繁に起きることであることを還暦を過ぎた者としては、多数経験してきた。



 この場合、江川ノートに書かれているのは、

 検温の看護師に「ふざけんな、ぶっ殺してやる」などとつぶやいた。

男性医師は2016年5月10日午後2時55分頃から3時12分頃までの17分間に、2回にわたって病室で、手術をしなかった左側の胸をなめたり吸ったりしたうえ、(母親のいる)ベッドサイドで自慰行為に及んだ。



 そもそも、この証言自体、あまりにも異様なもので、「自分の母親がいたベッドサイトで、医師が、手術しない側の乳房を舐め、性器を露出して自慰行為に及んだ」

 と言っている。



 これを高裁は、

被害証言は「生々しいもの」で、これを「せん妄による幻覚として説明することは困難」として判決理由としている。

 ちょっと信じられないほど異常な判決で、この判決を下した、東京高裁刑事第10部(朝山芳史裁判長)は、おそらく、まともな人生経験も人間関係もほとんどない司法の鳥籠の密室から出たことがないのではないか?



 現在の司法試験は、裁判官としてもっとも大切な市井の庶民のあり方に極端に無知蒙昧な者ばかりで、司法権力のシステムに純粋培養されている。

 大岡越前など絶対に出てこれない環境なのだ。

 西山事件も同じだが、世間知らずのバカボンが試験だけに受かって裁判官になれば、こうした常軌を逸した判決ばかりになるのは当然のことだ。



 こうした冤罪事件が起きないようにするためには、裁判官に市井の庶民感覚を身につけるインターン制度を作るか、あるいは、警察・検察・裁判所に、判決後の再見直しを専門的に行う、「司法警察」を儲け、すべての事件を再審理し、誤逮捕、誤起訴、誤判を行った司法関係者に厳重な懲罰を科す制度を作るしかない。