震災非常用トイレ
阪神大震災や中越震災の体験談をみると、何が大変だったのか? 順序をつけると、トイレを挙げる人が多い。
水や食料は比較的容易に入手できる。食べられないとはいっても、せいぜい二日程度だろう。周辺からの救援物資の最初に水と食料が到着するからだ。
しかし、入れたなら出さなければいけない。そのトイレが問題なのだ。
新潟山古志村あたりなら、野山がたくさんあって、ちょっと林に入って用を足せば、それほど大きな問題にならなかった。しかし、避難施設に入ってからが問題だった。
体育館のトイレなど、せいぜい数名分しか設置されていないから、数百名が生活するなかで、朝など間に合うはずがない。我慢して膀胱炎になった女性も多いと聞いた。かなりの人が腎臓を悪化させたことだろう。
阪神大震災では本当に大変だったらしい。山古志村のような野山も林もないから、公園の木陰や道端で用を足すしかなく、ちょっと口では言えないほどの悲惨さがあったようだ。
こんな状況で、マンホールのフタを外して緊急トイレを作ったなどのレポートもあったが、誰でもできるわけでなく、そのマンホールさえ破損していたら、かなり困ったことになる。
筆者は、こうした緊急事態の際のトイレとして、非常に有効なシステムを5年ほど前から実験している。
最初、中津川市の山奥に引っ越してきたとき、購入した当地は山林にちょっとした平地があっただけで、電気も水道も下水もなかった。そこで合併浄化槽を自作したわけだが、なかなかうまく機能せず困っていたところ、今、福島県にお住まいのKさんが、EMBCシステムを紹介してくれて自腹で導入してくれた。
これが、とんでもないスグレモノで、以来、我が家のトイレは一度もくみ取りしたことがないが汚物も紙もどこにもない。すべて分解消失してしまっているのだ。悪臭も皆無、最終放水槽は透明で金魚が泳ぎ回っている。
その気になれば飲んでも大丈夫、実際に最初の頃はウイスキーを割って飲んだりしていた。今は、電気代を節約することもあって若干浄化力を落とし、廃液をなるべく畑に液肥として散布している。浄化しすぎると肥料成分まで消えてしまうのだ。
EMBCとは、「複合発酵システム」のことで、EMを開発した比嘉照夫氏と共同研究していた高島康豪氏が開発したバクテリア浄化システムのことだ。(高島氏は静岡市にある高島酒造の経営者)
複合発酵とは、単独種の菌と違って、80種類ものバクテリアが互いに共生関係を保ち、好気性と嫌気性が相互に産生物質を利用しあって複合的に作用するもので、一般的な浄化槽菌に比べて数十、数百倍の浄化能力を持っている。
この複合菌群は地球上のすべての大気・土壌中で活動し、実際に地球を浄化し続けている主役である。
これの凄いところは、有機物だけでなく、ダイオキシンやPCB、放射能まで分解してしまうところで、既成の科学では分析しきれない超絶的能力がある。
EMと似たようなものと思われているが、本質的に違うのは、EMモルトが80種類のバクテリアを最初から種菌として入れているのに対し、EMBCモルトには生菌はまったく入っておらず、代わりに菌培養酵素が含まれている。
酵素だけで分解菌が活動するわけがないのだが、実際に培養すれば、ほぼEMと同じような複合菌群が出てくるのだ。
これは、大気中に浮遊する数万種類のバクテリアがいて、培養酵素と栄養さえあれば、簡単に増殖するからで、EMBCモルト1リットルに対して、18リットルの湯(39度)、1.5キロの糖蜜を攪拌する。このとき大気中のバクテリア芽胞を入れるのに、日本酒醸造に似た櫂突を使い30分ほど空気を入れながら液を揉むことになる。そうして暖かいところに寝かせ、ときどき攪拌とガス抜きをすれば、ほぼEMに似た浄化バクテリアができあがる。
これを浄化槽のなかに、五人用なら100リットルも投入して、強めの曝気をかければ、半月程度で、紙もウンコも完全に消失してしまうのである。EMでも、ほぼ似たようなものだが、EMBCは、浄化する現地のバクテリアを自然な形で複合発酵(共生関係)させるので、EMのような拮抗相互抑制が起きにくく、より自然な浄化が行われるという仕組みである。
この浄化培養液は、5人用の場合、二ヶ月に一回程度、5リットルほど追加していかないと劣化することがあり、どうしても、ときどき培養しなければいけない。
ところが、今ではEMBCモルトが非常に高価になってしまったために入手が困難になり、筆者の場合は、柳田ファームのバイオエナジー水を利用して培養している。
人により方法は異なるが、筆者の場合、柳田バイオエナジー水5リットル、湯13リットル、糖蜜(黒砂糖)1.5キロ、EMモルト0.5リットルを39度で櫂突攪拌、ときどきガス抜きし一ヶ月放置するだけだ。
これを二ヶ月に一度5リットルずつ浄化槽に補充している。大切なのは、浄化槽の攪拌で、25ワットのブロアー二基を運転し、タイマーを使って1時間に10分以上、内部をポンプで循環させながら攪拌している。これで紙もウンコも完全に消えてしまう。
さて、問題の震災トイレだが、トイレの上部はどれでも同じようなものだ。震災では水の便が悪いので、水洗は使いづらく、ボットン方式にするしかない。
普通なら肥だめが腐敗して悪臭が出るが、500〜1000リットルのポリタンク便槽に最初から50〜100リットルのEM(EMBC)浄化培養液を入れておけば、ほとんど臭いは出ない。
これだけでも、すばらしいことだ。これに、さらに曝気ブロアーを運転して内部を攪拌するようにすれば、浄化が激しく進み、もちろん紙もウンコも消えてしまう。オーバーフローした上澄み液は、ほとんど臭いのない優れた完熟液肥として、そのまま畑に利用できるだけでなく、一般の側溝などに流しても、流路を浄化する効果がある。筆者宅では金魚が楽しそうに泳いでいる。
驚いたのは、誤って腹部を大きく傷つけた瀕死の金魚が完全に回復してしまったことで、この廃液は、どうやら傷を回復させる効果があるようなのだ。これまでサギや猫に取られる以外に病死した金魚は皆無である。
このシステムは、あらゆる有機汚物を浄化する能力を持っており、まさに人類救済の切札と確信し、筆者は「人類救済技術」と銘打ってHPで紹介している。 現実問題として、1m四方くらいの上部構造は通常トイレと同じでよく、下部構造は、市販の500〜1000リットル農業用ポリタンクが利用できる。震災時の電気供給は、20ワット程度の太陽電池を利用すればよい。
必要な設備は、20ワットくらいの曝気ブロアーだけだ。汲み取りメンテナンスがなくとも、タンク上部にオーバーフロー弁を作って側溝や畑に流すようにすれば、汲み取りも不要である。問題になるような悪臭は皆無だろう。それどころか、畑には素晴らしい作物ができることを保障する。
二ヶ月に一度培養液を補充するのと洗浄くらいがメンテになる。
なお、当座、EM培養液で代用しても結果は似たようなものだ。EMBCと比べて浄化力は落ちるが、悪臭もなく基本性能はそれほど変わらないと思う。場合によっては、飯山式乳酸菌や島本酵素の利用も有効だと思う。
普通のヨーグルトを数キロ投入するだけでも違う。分解するのはヨーグルトの生菌ではなく、その産生物質により屎尿分解適合乳酸菌が産まれてくるのである。あるいは、良好な発酵を行っている山の腐食落葉を入れても良いと思う。
上部構造は工事現場用のトイレが流用できるが、水洗が多いので、この場合、タンクは最低1000リットル、ブロアーも40ワットくらいは欲しい。オーバーフロー排水が多いので、浄化力を強くする必要がある。
一日の浄化容量は、100人分あたりが限度かもしれない。それ以上だと分解しきれない生処理液が出てくる可能性があり、対策が必要になるだろう。畑に大きな穴を掘って浸透投入する必要があるかもしれない。
EM複合発酵菌群は、元々は自然界の浄化システムを観察し、その本質を流用したものである。深い山中では、落葉が堆積し、地表面でEMと同じ複合発酵浄化がおこなわれている。
これを、そのまま培養したものがEM(有用微生物浄化)システムだと思えばよい。バクテリアの主体は、主に乳酸菌と酵母だといわれる。全国に、こうした微生物資材はたくさん商品化されていて、島本微生物や飯山式乳酸菌など、結局、同じような本質を持っているようだ。
だから特定の商品にこだわらず、自分なりの考えで乳酸菌と酵母を主体にした複合発酵を目指せばよいわけだ。
この特徴は、まったくの無臭ということで、全国の畜舎も、こうした微生物処理の知識を持っていたなら、悪臭問題など簡単に消えてしまう。
といいつつ、実は筆者はニワトリの飼育で大失敗をした。悪臭をEMで消せるつもりで飼育したが、まったくダメで、近所に大迷惑をかけてしまった。
これはオカラ発酵飼料が大雨で腐敗したためだったが、技術の過信は禁物だ。筆者宅でも、腐敗オカラを十分曝気できれば問題は生じなかったが、そんな設備はなく、土の上に置いたオカラは悪臭を放ち、EMをかける程度では解決できなかった。
EM浄化システムは、自然界で長い時間をかけて行われている浄化プロセスを人為的に短縮したものである。土の上で三年かかる浄化を三日で行うのである。このためにエネルギーを投入する。その主体がブロアーによる曝気であり、ポンプによる循環攪拌なのだ。
この行程がなく、土の上だけで分解させるなら、自然界と同じ時間がかかるということを肝に銘ずる必要がある。
とりあえず、震災対策の公衆トイレを設置する場合、ボットン方式で500リットル、水が使えるなら水洗方式で1000リットル以上のタンクを用意し、なかで曝気して屎尿を分解する。
このとき初期投入のEM培養液が100リットル以上と覚えていただきたい。結果として、悪臭皆無のボットントイレが人々を救ってくれるだろう。オーバーフロー廃水は畑で液肥として再利用できると知っていただきたい。
<span itemprop="headline">2009年9月13日 ●震災トイレのこと</span>
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