大河原化工機冤罪事件で、裁判中に、専任捜査にあたった警部補など三名が、「この事件は、上級職の出世欲のためにでっちあげられた」
 という意味の証言をした。

 2024年12月9日の公判で、
 【東京高等裁判所で、当時警視庁公安部で事件を担当した現職の警察官3人への証人尋問が行われ、このうちの1人が捜査について「問題があった。決定権を持っている人の欲で立件したと思う」と証言した】
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241009/k10014605021000.html

 現場の捜査官の多くは、大河原化工機事件の立件が無意味であり、冤罪を捏造することになると認識していた。
 しかし、問題を口にしても、警察内部の指揮命令系統に逆らうことができず、冤罪であることを承知で立件、起訴を進めていった。
 結果として、経営者二人を逮捕、長期拘禁し、うち一人(相島静夫専務)が重度の癌に侵されても、検察も裁判所も、拘禁解除治療を認めなかったため獄中で死亡した。
 https://hirukawamura.livedoor.blog/archives/6120673.html

 悪意に満ちたウソ・脅し、変更された供述調書… 大川原化工機冤罪事件が浮き彫りにした取り調べの問題点 東京新聞 2024年8月26日
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/349662?rct=tokuhou

 大川原化工機を巡る冤罪事件 警視庁公安部が2020年3月、国の許可を得ずに噴霧乾燥機を中国に輸出したとする外為法違反容疑で大川原正明社長や島田さんら3人を逮捕し、東京地検が起訴したが、21年7月に取り消した。
 1年近く身体拘束された社長らが逮捕・起訴は違法として東京地裁に起こした国家賠償訴訟の証人尋問で、捜査担当の警察官が事件を「捏造」と証言。

 ◆窓のない部屋で取り調べ39回
 「うそをつかれたり、脅されたり。悪意に満ちてましたよ」。大川原化工機の元取締役の島田順司さん(71)は8月上旬、警視庁公安部の取り調べに対する憤りを「こちら特報部」に語った。

 同社の「噴霧乾燥機」が生物兵器製造に転用可能だとして、国の許可を得ずに輸出した外為法違反を疑われた島田さん。逮捕前の2018年12月〜20年2月、任意の取り調べを39回受けた。1回3〜4時間。原宿署の灰色の窓のない部屋で、警察官と向き合った。

 生物兵器製造に転用するには、機械を扱う人が細菌に感染しないよう内部を「殺菌」する性能が必要だ。大川原の機械はその性能がなく、国の輸出規制の対象にならない。島田さんは終始一貫して訴えたという。

 ◆「あんなの供述調書じゃない」
 だが、公安部が作成した島田さんの任意調べ時の供述調書計13通に目を通しても、そのような主張は登場しない。逆に輸出規制の対象になるとして「勝手に全て非該当と判定した」「国の許可を取らずに不正輸出を繰り返した」と容疑を認めるような記述がある。

 一体どういうことなのか。島田さんに聞くと、「あんなのは供述調書じゃない」と声を強め、勾留中に記録した「任意事情聴取時の状況」という手書きメモを見せてくれた。

 ◆話してもいない文言を付け加えられ
 メモには「供述調書作成状況」という項目がある。調書が「供述した内容と大きく恣意(しい)的に変更され、誇張された」として、「警察はこのようなことをするのかと失望した」と記されている。
 「偽って」「認識していながら」「ずさんに」など話してもいない文言が多く付け加えられた、とも。

 「『無許可で輸出した』という部分は、『許可が必要とされない仕様なので、結果的に無許可で輸出した』と(補足するよう)何回要求しても入れてもらえなかった」という。
 島田さんによると、取調室ではペンを貸してもらえず、調書の訂正したい箇所に印を付けられなかった。訂正を希望すると交換条件を付けられたり、一カ所訂正するたびに調書を取り上げられたりして、見落としや確認不足が起きた。

 ◆何を聞かれ、どう答えているかも分からなくなった
 当時の精神状態をこう振り返る。「平静を装ったけど、緊張で手が震えていた。逮捕をちらつかされ、『おまえだけが認めない』とうそをつかれて迫られ、何を聞かれ、どう答えているかも分からなくなった」
 島田さんが「不正輸出を繰り返した」と容疑を認める趣旨の調書の存在に気付いたのは、逮捕後に弁護人に指摘されてだった。

 ◆公安部の「偽計」を認定した地裁判決
 国賠訴訟の東京地裁判決は、公安部の取り調べ時に「殺菌」の解釈を島田さんに説明したやりとりが調書にないことなどから、誤解させて調書に署名させる「偽計」を用いた取り調べで違法だと認定した。
 この認定について、警視庁幹部らは本紙の取材にそろって不満を口にした。ある幹部は「『偽計』なんて犯罪行為のような認定は受け入れられない。今後の捜査にも影響する」と語った。

 ◆新証拠の録音記録を確認したら…
 東京高裁で6月に始まった控訴審。都側は輸出規制に精通する島田さんを誤解させるのは「不可能」で、調書に「殺菌」解釈を説明した形跡がなくても不自然ではないとして、地裁判決は「重大な事実誤認」などがあると反論している。

 大川原化工機側は終止符を打つべく、新たな客観証拠を提出した。13通目の調書作成後の2019年11月1日にあった34回目の取り調べで、島田さんが身体検査をくぐり抜けてひそかに成功した録音だ。

 録音記録を確認すると、島田さんは噴霧乾燥機の輸出規制要件を巡って、自身の考えを説明し、経済産業省のガイドラインを根拠に大川原の機械は「該当しない」と訴えている。だが警察官は「ガイドラインは大した内容でも何でもない」「経産省は明確に要件に該当ですって」と述べ、取り合う様子はなかった。

 ◆逮捕後の弁解聴取でも違法認定
 代理人の高田剛弁護士は「公安部は独自に考えた『殺菌』の解釈を示さず、経産省の名前を出して決めつけで取り調べを進めた」と指摘。その上で「任意捜査の終盤でも、明確に不正輸出を否定していたことが明らかになった。改めて供述調書の不正確さが浮き彫りになった」と強調する。
 島田さんの任意取り調べ時の供述調書。「不正に輸出を繰り返した」と容疑を認めるような文言がある

 地裁判決は公安部が島田さんの逮捕後に弁解を聴く際にも、島田さんの指摘に沿った修正をしたように装って書面に署名させる違法があったと認定し、控訴審で争われている。取り調べに補助で立ち合った警察官の証人尋問が10月9日に予定され、島田さんは「正直に話してほしい」と話す。

 ◆「なめんなよ」「ガキだよね」問題相次ぐ
 最近も捜査機関の取り調べを巡る問題が目に付く。
 19年に不動産会社社長が業務上横領容疑で大阪地検特捜部に逮捕され、後に無罪となった事件では、大阪高裁が今年8月、部下の取り調べで「検察なめんなよ」などと怒鳴り、机をたたいて責めたとして田渕大輔検事(52)を特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判に付すことを決めた。

 18年に犯人隠避教唆容疑で逮捕されて黙秘した元弁護士が、取り調べ時に「ガキだよね」などと横浜地検検事から侮辱されたとして国に賠償を求めた訴訟で、東京地裁は7月、賠償を命じる判決を出した。
 いずれも逮捕後の取り調べの録音・録画が義務化された検察の独自捜査事件だったため、映像から判断できた。一方、大川原の場合は録音・録画の対象ではなく、任意段階の様子は、島田さんの録音がなければ正確なやりとりは全く分からなかった。

 ◆日弁連「全事件で録音・録画義務づけを」
 「捜査機関の心証に合致する供述証拠を作るためのものではない」。かねて取り調べのあり方を問題視してきた日本弁護士連合会は6月の決議で、全事件の逮捕前からの全過程で録音・録画を義務づけるよう要望した。さらに録音・録画の状況下でも不当な取り調べが繰り返されていることは「公知の事実」として、弁護人を立ち会わせる権利を確立すべきだと主張した。
 
 前出の高田弁護士も「捜査機関は際どいテクニックを駆使して自白をとりにくる一方で、取り調べられる側はペンさえ持てずに丸腰だ。希望があれば全過程を録音・録画し、弁護人の立ち会いも認めるべきだ」と話す。島田さんもこう訴える。「現状のままでは、われわれと捜査機関が全くフェアな関係じゃない。また必ず冤罪が起きる」
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 引用以上

 島田社長の証言で、公安警察は、供述調書に、供述にない勝手な変更と、ウソを書き加えていたことが明らかにされた。
 「警視庁公安部」といえば、一種のスパイ摘発組織や政治弾圧部署として知られ、無茶苦茶な人権侵害を平然と行う、同僚の警察官からも嫌われていた部署だ。
 https://gendai.media/articles/-/115810?page=1&imp=0
 
 この冤罪殺人に責任を持つべきは誰か? 捏造であることを承知で無理やり事件に仕立てようとした公安警察幹部か? 末期ガンと診断された、無実の相嶋静雄さんの解放治療を1年以上も無意味に拒否し続けて獄死させた検察と裁判所か? (無実を主張する島田社長への嫌がらせと弾圧目的だった)
 
  この事件は、袴田事件(直接ではないが)の紅林麻雄や西山美香事件の山本誠の悪質性に匹敵する、冤罪を承知で、被疑者をでっちあげて犯罪者に仕立て上げた警察官犯罪である。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%85%E6%9E%97%E9%BA%BB%E9%9B%84

  https://www.excite.co.jp/news/article/Bizjournal_202005_post_154993/

 私は、警察官犯罪の悪質性は、自分の手柄で昇進を狙う目的で冤罪をでっちあげることが、被害者のダメージを極度に増幅させることを知りながら、制服の権威に隠れて、必ず自分の責任を隠ぺいしようとする卑劣さだと思う。

 この問題の根源は、日本の司法制度、社会秩序が、儒教的な階級序列主義に覆われていて、民主主義が存在しないところにあると確信する。
 冤罪を捏造する卑劣警察官が出てくる本当の原因は、警察内部に自由にものを言い、正義を貫こうとする警察官の意思が抹殺する体制にあると思う。
 鹿児島県警内部告発事件は、その典型だった。

 〈あのときの話題を「再生」〉鹿児島県警「本部長の犯罪隠蔽」に「失望した」元警視正の“告発” 内部資料送られたジャーナリストが訴える「ずさん捜査」 鹿児島県警 アエラ 2025/06/10/
 https://dot.asahi.com/articles/-/257724?page=1

 鹿児島県警といえば、維新後に、薩摩兵が警察官として会津に派遣され「オイコラ警官」として傲慢さの代名詞になった地域で、深刻な冤罪事件が多発している県警である。
 冤罪 志布志事件
 https://newsee-media.com/shibushi-jiken

 冤罪 大崎事件
 https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/retrial/shien/osaki.html

 九州全般にそうだが、いわゆる「男社会」で、女性を見下してDVを働くことの多い男たちがいる。日本でも指折りの封建的な土地柄といえる。
 なぜ、これほど序列や階級にこだわり、他人を見下す男が多いのかといえば、それは島津氏の統治が関係している。

 本来、九州は弥生人の渡来地で、蘇州長江由来=照葉樹林帯文化圏であり、男女関係は自由で、どちらかといえば女性が強いはずだったが、島津氏は、平安末期に京都から薩摩に派遣された地頭であり、元寇の役でも活躍して、非常に強力な圧政を敷いた。
 家康は、島津氏を日本最大の武力集団と警戒していた。幕末の薩英戦争でも勝利するほどの実力があった。

 武力による圧政だったので、結局、薩摩は武人としての男社会になってしまい、戦わない女性、文民が軽視される社会になった。
 これが瀬戸内にゆくと、照葉樹林帯文明の自由な人間関係が生き残ってきた。

 こうした武力集団では、必ず上下の階級、序列が重視されるようになる。
 戦争のとき、指揮系統を序列化し、無条件に従わせることで、効率的に勝利することができるからだ。

 現在、警察や消防などの非常時組織で、いわゆる「階級序列社会」が強要されている理由は、戦争における軍隊の階級序列と同じ意味だ。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%8E%E7%B4%9A_(%E5%85%AC%E5%8B%99%E5%93%A1)
 確かに、戦争非常時に、民主主義を適用していては、組織を効率的に生かして目的を達成するのは難しい。だから非常時に上意下達の階級制が合理的といえばその通りだが、このことで、警察・消防・軍の非常時対応組織には、民主主義が売失われ、上級幹部の勝手な思い込みが、大きな損失をもたらすことになった。

 近代史からいえば、旅順要塞戦の乃木希典による無謀な突撃戦や、インパール作戦における牟田口廉也将軍の根拠の欠落した妄想的戦略で10万人の日本兵を無駄死にさせた例がある。
 上の方に挙げた、警察の冤罪捏造不祥事なども、結局、上級警察官僚が手柄と出世欲しさに成果を捏造する事例が多い。
 これは、江戸時代の藩政制度における、儒教の「序列メンツ」秩序を引きずっているせいだ。

 この問題の本質的解決に何が必要かといえば、可能な限りの民主的なシステムを導入すること以外考えられない。
 上から命令された階級ではなく、民主的に選挙された階級だったなら、間違った人権侵害が起きた時でも是正システムが働きやすい。

 何を言いたいかというと、私は、自衛隊、警察、消防の階級組織も、民主制を導入すべきだと言っている。現場で仕事をしている人たちの総意によって、階級制度を機能させるべきであり、上から選ぶ指令システムではなく、下から選ばれる指令システムなら、トップにトランプやプーチンのような強欲しかないような愚劣な人物が立っても、下位の組織で、誤りを是正することが可能になるのだ。

 民主主義が否定される理由の一つに、決断プロセスが遅く、事態に迅速に対応できないことが挙げられている。
 今、まさに燃え上がっている大火災を前にして、民主的手続きをしていたら被害が拡大するというわけだ。
 しかし、迅速対応システムを事前に民主的な意思の共有によって制度化しておけば、効率的な対応も可能になるはずだ。

 むしろ、一司令官の愚かな決断ではなく、「みんなの総意」が生かされたシステムなら、一人一人の隊員の士気もまるで違う。
 今、ロシアはプーチン独裁の命令でいやいや参戦している兵士の士気は著しく低いが、ウクライナの民主的な軍隊組織は士気が高く、兵士の数の比較など問題にならない、創意工夫による大成果を挙げている。

 日本の自衛隊、警察、消防組織にも、民主的な手続きを経た、上からでなく下からの総意で定まった指令体系を導入すべきなのだ。
 そうすれば、冒頭に紹介したような、煮えくり返るような権力犯罪、許しがたい冤罪も圧倒的に減少するにちがいない。